ゴム草履で図書館

10月25日

 

 先週の金曜日に、バイト先の店長がインドに帰り、代わりにハリヤーナ出身のシェフが来た。いかにもずる賢そうな風体をした男だが、今のところ店はうまく回っている。

 

 4時頃にバイトが終わり、家に戻り、一服。夕日を浴びて寝たくなったが、重い腰を上げ、なんとか図書館にたどり着くことができた。これからは頻繁に図書館に通うようにしようと思っている。

 

 先週、先々週は、だらだらしすぎていた。時間がもったいなかった。バイト以外の時間は、ビールを飲みながらNetflixでGet Downという70年代終わりのブロンクスが舞台のヒップホップドラマを観ていた。Netflixは、売れっ子ITエンジニアのシャランのアカウントで観ている。月に14ドルで5つのガジェットから視聴可能らしい。

 

 Netflix Indiaでは、詩聖タゴールの自伝ドラマもやっている。シャランと一緒に見て、タゴールについて議論しなくては。

 

 先週の日曜日は、シャランとインドのお祭り、ディワリを祝いにParramatta公園に行った。屋台がたくさん出ていたのに、ビールはどこにも見当たらなかった。シャランは、長い列ができた南インド料理を見つけ、はしゃいでいた。僕は並ぶのが嫌だったので、メニューを見るふりをして、そのままキッチンをのぞき込み、ヒンディー語で、「イドリーセット1つもらえる?」と訊いた。すると数秒後に、僕とシャランのもとにはイドリーセットが来ていた。オーストラリアに住んでいるインド人たちは、脇が甘い。シャランはイドリーにむしゃぶりついていた。

 

 メインステージでは、寸劇やバラタナティヤムなどのみんなが楽しめる感じの、出し物が行われていた。サブステージでは、ヒッピーのような恰好をした人たちが、「どっぽん、ど、ど、ぽん」というドラムのリズムに合わせ、「ハレクリシュナ、クリシュナ、クリシュナ」と歌っていた。

 

 ディワリの花火を観賞して、帰る頃に、パーンというインドの噛みタバコを見つけたのでシャランと共に味わった。お酒もタバコも吸えなかったのでパーンがありがたかった。「パーンを食べると消化が促進される。」と言ってシャランは全て飲み込んでいた。

 

 シャランはいつも恥ずかしがって、人に声を掛けたがらないが、僕がインド人に声を掛けて、自己紹介をしているときに、僕の説明をシャランがしてくれて、聞き手側はそれをスムーズに理解してくれるので助かっている。今週末もまた、シャランと街ぶらする予定。

ビリヤーニ

 9時半から3時半のシフトを終え、酒屋でビールを買い、飲み、図書館に来ている。

 

 今のバイト先が2週間以内につぶれることになったので、新しいバイト先を探さなくてはいけない。

 

 家の近くにあるステゥーデント・ビリーヤーニというレストランが気になっている。パキスタンのカラチにあるお店の系列店であるらしい。今晩ルームメイトと行く約束をしている。めちゃくちゃ楽しみである。

 

 カシュミールやパキスタンでは、ビリヤーニをビリヤーニュイだったか、ビリヤーニャエだったか忘れたが、少し違った発音をするらしい。そして多分、現在のインドより西で生まれた料理だから、ウルドゥー話者はヒンディー話者がビリヤーニと発音することに対して、ダサいと思っている。

 

 日本人でビリヤー二のおいしさを知っている人はまだまだ少数だと思う。でもなんとなくメジャーになり始めている気配もある。Youtubeにもたくさんビリヤーニに関する動画が上がっている。

 

 シドニーで会った板前のしょうさんもビリヤー二が好きだと言っていた。ビリヤーにも定番料理なのであの伝統的で独特な料理法を勉強したい。壺でビリヤーニを炊き込みたい。

 

 かつてデリーに住んでいた時には、つるつるの壺に入ったビリヤー二の出前を取ったことがあった。今日の晩御飯のビリヤーニも壺に入っているといいな。

右手が酷くしびれる

10月5日

 

 8時半に起き、小便を済ませ、8時35分に家を出て、8時40分の電車に飛び乗った。

 

 電車の中ではカレーに関する本を読んでいる。『カレーの奥義』という本の中で、「日本人とインド人では、カレーに求めることが、うま味なのか、スパイスのハーモニーなのかという違いがある。」という一文を見つけた。『スパイスの科学』という本には、「同じ種類の臭いがするスパイスを複数使うと、薬臭さが緩和される。」と書いてあった。

 この2つの文は共通した部分があるのではないか。同じ種類の臭いのスパイスを複数入れて、カレーを作れば、薬臭さがなくなり、おいしくなるのではないか。50種類くらいのスパイスを混ぜるシェフがいると聞くが、まずは今わかっていることをもとに、カレーを作って、多くのインド人と共にカレーを食べて、経験を積もう。インド人が好むスパイスのハーモニーとは何なのか突き止めよう。

 9時半からのテイクアウェイ店の仕事ではタンドーリーチキンのマリネ、マスターグレービー作りなどを行った。  

 

 3時半までのシフトを終え、次の店のシフトまでの間、セントラルステーション駅近くの図書館へ。道中で、ボトルショップを見つけ、ビールを1本購入。ケータイでMonseiur Perineというコロンビアのバンドを聴きながらビールを飲み干す。天気がよく、気持ちいい。  

 

 そして今、図書館で書いている。6時からのバイトはひたすら皿洗いである。マジでつまらないので、先週の日曜日に辞めたいから他のキッチンハンドを探してくれと伝えた。そのバイト先のボスは、僕の給料を3週間分未払いしている。いつも優しく話しかけてくるが、とにかく給料を払ってほしい。

 

ビール

10月4日

 

今住んでいる部屋では、お酒を飲むことが禁止されている。

 

なぜなら、シェアフラットのマネージャーがムスリムで、8人住んでいるフラットメイトのうち、6人はムスリムだからである。

 

同じ部屋のシャランは、ヒンドゥーでお酒を飲むが、ビールを飲むとお腹が痛くなるらしく、飲みたいときに誘っても、あまりノリがよくない。

 

だから、ボトルショップに行って、4本で10ドルのビールを買って、アパートの庭で、隠れて飲んでいる。

 

昨日は祝日で約4週間ぶりの休日。フラットメイトたちとロイヤルナショナルパークへ行きバーバーベキューをした。デリーワーラー、ムンバイワーラー、ラホールワーラーの友達が新たにできた。 とにかくいろんな人に会って、何か感じる人と話しまくろう。 

 

公園に着くと、早速みんなはクリケット始めた。

 

僕に順番が回ってきたので、野球の構えで打席になった。2球ほどボール球を見送って、3球目にフルスイングをした。

 

分厚い板のようなクリケットのバットは重く、かなり振り遅れた。これは空振りだとスイング前からなんとなくわかった。

 

重いバットを体の前まで振ったところで、急にバットが軽くなり、全身の力が抜けた。バットが弾に当たる感覚はなかったが、何かが僕の手元から飛んでいく感じがした。

 

バットを振りぬいた僕の手にはバットのグリップだけが残っていた。何が起こったのかよく理解できなかったが、サード方向に顔を上げると、真っ青になった友達の顔があった。 僕の振ったバットの重くて暑い板の部分はグリップ部分からすっぽ抜け、サード方向へ飛んで行っていたのだった。

 

幸い、誰にもバットがぶつかることはなく、笑い話ですんだ。みんなが笑っていたので僕も笑ってごまかした。 あと10日ほどで夜に働いているレストランを去ることになったので、その後、また、新たな展開がはじまりそうである。早く辞めてゆっくり、じっくり物語を進めたい。

 

クリケット大会はバットが壊れてしまったので終了となった。

しびれ

9月28日 

 

相変わらず、毎朝、手がしびれている。

 

ルームメイトのシャランにアーユルベディック・クリームをもらったのでそれを塗りながら、マッサージしている。  

 

先日、サモサを揚げているときに、油が顔に飛び、額に大きなやけどを負ってしまった。一緒に働いているジャティンデルに「俺の額どうなってる?」と聞くと、「ナイスビンディー!」と言って笑ってくれた。  

 

仕事の時間が長すぎて、シェアハウスの掃除やご飯作りができないでいる。スケジュールを変えないといけない。

 

何かしっくりいっていなかったら、とにかく環境を変えて、移動し続けたい。今日はこれからレストランにやめたいという意思を表明しようと思う。

タンドーリーチキン

9月21日

 

 月曜日から金曜日の9:40-15:10にテイクアウト店、水曜日の17:30-22:30にレストランという日程で働いている。

 

 ナーンを焼く技術が上がり、ガーリックナーン、チーズも焼けるようになってきた。加えて、ナーンの生地の作り方、タンドーリーチキンの作り方が大体わかってきた。サモサ、パコラ、タマリンドソース、ミントソースくらいの作り方を覚えて、他のレストランにタンドーリーシェフとして雇われたい。

 

 夜に働いている店は、皿洗いを基本的にやらされてる。スチールのトレーを洗うときに、手に傷ができる。右手には小さい切り傷が7個できている。

 

 フライパンや、鍋を洗うときに取っ手をつかむせいで、手のひらも少し痛い。最近、朝起きると両手がむくんで、しびれている。

 

 引っ越しをしてから、ベッドがなく、床に毛布を強いてそれにくるまって寝ている。自分で自分に腕枕をするような体勢で寝ていると、手がすぐにしびれる。

 

 後に2週間くらいで夜に働いているレストランをやめようかと思っている。ゆっくりな生活をして、だらだらしたい。

 

 一日中インド人たちと暮らしているせいで楽しい事が起きまくっている。

 

 ルームメートのシャランは、肌を白くするために、少し太りたいらしい。

 

 どういうことかというと、彼は子供の頃、肌が白くふくよかな体型だったらしい。しかし、大人になるにつれ、痩せていき、肌の面積が狭くなり、色素が凝縮され、次第に肌全体が黒くなっていったらしい。

 

 白い肌のほうがモテるから、太って肌を白くして、彼女を作りたいらしい。太れば肌は絶対に白くなっていくらしい。

 

 シャランは真面目な顔で話していたが、僕はじんわりと込み上げてきた笑いをこらえきれず、爆笑してしまった。

 

 爆笑する僕を見たシャランはなんだか満足そうだった。

 

 

 

 

カシミール

9月20日  

 

 一昨日、キングスクロスの安宿生活を離れ、Auburnという郊外の町に引っ越した。

 

 駅から徒歩で7分ほどにある、5階建ての小ぶりなマンションのようなところで、僕以外には、3人のパキスタン人と、4人のインド人が住んでいる。パキスタン人はカラチから2人、ラホールから1人。インド人は、カシュミールから2人、ラクナウから1人、バンガロールから1人というような感じである。  今日は、カシュミール出身の2人がみんなのためにマトンカレーを作っていた。

 

 ただの家庭料理だと言っていたが、カレーのソースとマトンの煮込みを別々の鍋で丁寧に作っていた。クミン、カレーリーフ、唐辛子を熱い油の中に入れ、薄く切った玉ねぎを炒める。生姜、ニンニクをみじん切りしたものを入れ、ターメリックコリアンダーと続けて入れていく。玉ねぎがあめ色になった頃に、トマトソースを加えさらに煮込む。  

 

 マトンは圧力鍋にマトン、水、ターメリック、ソーンフ、生姜、ニンニク、塩を入れ圧力鍋が湯気を吹くまで煮込む。ゆで汁少しとマトンをソースと混ぜ、煮込み、完成。  

 

 チャパティを作ってくれと頼まれたので、作った。生地をテーブルに打ち付けて捏ねる音や、手の平で生地をのばす音を出した時に、みんながようやく僕がインド料理屋で働いていることを理解したようだった。一口食べて、「実家を思い出す!」と言っていた。

 

 もっと時間があるときに、時間をかけていろいろ作りたいと思う。