5月16日 ビーフカレー

  午前中はゆっくりと過ごす。

 

 公園でボーっとしながらツバメノートに頭に浮かんできたことを書く。ノートがちょうど最後のページだったので、過去のページを読み返した。就職活動と卒業研究が詰まらなかったことを思い出した。

 

 その後、仕事探しの一環としてインド料理屋で昼ご飯を食べることに。New Farmという地区に3、4店見つけたのでそれらを見てまわった。しかしどのお店も営業していなかったので、しょうがなくケバブ屋でチキンケバブとターキッシュディライトを食べた。

 

 夕方、先週と同じマスジッドへ。前回友達になったムハンマドと待ち合わせ。待ち合わせ後にマスジッド内に入ると「ドネーションボックスが盗まれた!」といって数人が騒いでいた。ムハンマドも信じられないという表情をしていたが、後に冗談で誰かがいたずらしたことが分かった。少し悪質な冗談に思えたが、みんな楽しそうにしていた。

 

 平日の夜のお祈りには20人ほどの人が集まっていた。マスジッドに来ている人全員が、マスジッドに来ている人全員に挨拶していた。「アッサラームアライクム、調子はどう?」と言って笑顔でおしゃべりしていて、とても良い雰囲気。

 

 再びムハンマドの祈る姿を見て、心が洗われる。毎日祈ってコラーンの意味を考えるという行動はどういうことなのか実際に行って実験してみたいとも思う。

 

 夜のお祈りが終わり、ムハンマドが「会社に友達がいるから一緒に行こう。」と誘ってきたので、「ムハンマドがどんな風に仕事をしているのかみたい。」と言い、ついていった。

 

 プレハブと7、8台の車がある一画に着き、「ここが会社で、こちらが友達のマルフ。」と紹介してくれた。適当に僕も自己紹介をし、「どこか僕がシェフとして働けるインド料理屋知らない?」と訊いてみた。すると、近くのモーティ・マハルというレストランを紹介できるという予想外の返事。ムハンマドも、「あそこなら雇ってもらえるかもね。」と言っていた。いきなり舞い込んできたチャンスに少しテンションが上がる。

 

調子に乗って、「ドバイのインド料理屋の仕事を紹介してくれないか。」と頼むと、「ドバイの店でも紹介できる。」とマルフ。

 

ムハンマドは中古車を売買してお金を稼いでいる。トラブルが少ない日本車を扱っている。「ヒュンダイとワーゲンはたまに扱うことがある。」と言っていた。なんとなくではあるが、そこまで利益を上げようと考えているわけではなく、安い値段で車を売り、お客に尽くし、少しの利益で家族が養えればいいというような考えをしているように思えた。ムスリムとしては珍しくない生き方かもしれないが、日本人的にはとても先進的だと思う。

 

マルフが普段何をしているのかは聞かなかったが、かなり日本人慣れしているようだった。帰り際にマルフが、「日本語の歌を一曲歌いたい。」と言い「上を向いて歩こう」を歌いだしたので一緒に歌った。楽しかった!

 

ムハンマドが、「これからモーティ・マハルに行って仕事させてもらえるか訊きに行くか。」と言ってくれたので、お願いした。ムハンマドは奥さんと子供がいるのに、遅い時間まで僕に付き合ってくれる。

 

モーティ・マハルはインドの西ベンガル州出身の店主のお店である。魚のカレーを出すのがベンガル流で、メニューにはいくつも魚のカレーがあった。オーストラリアのインド料理屋の特徴として、メニューに牛肉のカレーがあることがあげられる。少しショックだがこれも放浪するインド人たちの知恵だと思うことにする。

 

店内に入り、座り、店主が来るのを待っている間、「やっぱり何か食べようか。」とムハンマド。店主が来たのでビーフカレー、ダール、チャパティ、ナン、サフランライスを頼む。そして仕事が欲しいという本題を切り出す。しばし僕のヒンディー語に驚きながら、笑顔で話を聞いてくれた。そして「ちょうど最近店が忙しいので、来ていいよ。」と言ってくれた。「ありがとう。」とお礼を言い、握手をした。ムハンマドも喜んでくれた。明後日の朝、とりあえずお店に行くことに。

 

イスラムコミュニティや、南アジアの文化の寛容さに感謝しながら、しばしルンルンしていると、料理が到着。ダールとチャパティを久しぶりに食べ、幸せな気分になる。そして問題のビーフカレー。牛肉はとても柔らかく、一瞬おいしいビーフシチューではないかと錯覚したが、次の瞬間にマサラの香りが広がる。かなりうまい。牛肉はくたくたに煮てあるので手で少し力を加えると肉が崩れ、ごはんとよく混ざる。混ぜて捏ねるのがインドカレーである。

 

いろいろと店主と話したいことがあったが、ムハンマドが忙しそうだったので、カレーを食べ終わってすぐに帰った。満腹。ムハンマドがまたおごってくれた。ムハンマドとはこまめに連絡をとるようにしよう。

 

店主からはあまり期待されてはいないと思うが、とにかく頑張って働こうと思う。